ShopifyがShop AppをReact NativeからSwift+Kotlinへ書き戻した。かかったのは12週間。6年前に全アプリをRNへ寄せ、2025年1月には5周年ブログまで出した会社の逆走だ。理由は性能ではない。AIコーディングエージェントが、2つのネイティブコードベースを維持するコストを抽象化のコスト以下に押し下げた。方程式が書き換わった。
5周年を祝った記事から1年8か月、Shopは12週間でネイティブに戻った
6年前に6つのアプリをすべてReact Nativeに振り向けたShopifyが、今度はネイティブ回帰を発表した。Shop Appの移行に要したのはわずか12週間だ。
2026年9月10日、Shopifyエンジニアリングチームが記事を公開した。タイトルは一言だけ:「Native is now the future of mobile at Shopify」。
旗艦モバイル製品であるShop、Shopify、Point of Sale、Inboxがすべて対象となり、復帰先としてiOSはSwift、AndroidはKotlin、すなわち「デュアルネイティブ」ネイティブ開発(iOSまたはAndroid専用にコードを書き、クロスプラットフォームフレームワークを使わない手法)開発が示された。これは部分的な修正ではなく、完全な撤退だ。
タイムラインそのものが皮肉だ。2025年1月、Shopifyは自社ブログで《Five years of React Native at Shopify》を公開し、Metaによるフレームワーク保守、共有インフラ、クロスプラットフォーム向け共通ライブラリを称賛し、引き続き投資していくと約束していた。あの祝賀記事から2年も経たないうちに、方針は反転した。
最も目を引くのはスピードだ。ShopifyがShop AppをReact Nativeからネイティブへ書き換えた期間は、わずか12週間だった。
この撤退がモバイル業界に起こした波紋は、2020年の全面移行と同じくらい大きい。理由は単純だ。6年前のあの移行は業界の方向転換であり、ShopifyはReact Nativeを実験的フレームワークから大手企業の主流へと押し上げた。そして今回は、同等の規模感をもって、その道を逆走できることを証明してみせた。
Shopifyは発表の中でReact Nativeを失敗と断じてはいない。2020年に立てた約束は果たした、と述べている。メスが入っているのは別の場所だ。6年が経過し、2つのコードベースを維持するコストの計算式が書き換わった。
RNの堀は「人月削減」、AIがその堀を埋めた
2020年、ShopifyがReact Nativeに全賭けしたのは、「一度書けば2環境で動く」ことによる人月削減が目当てだった。今やAIによるコーディングが2つのネイティブチームを同時に維持できるほど安価になったため、RNで浮いた費用だけでは抽象化のコストを払えなくなった。
まず、なぜ当時RNに賭けたのか。当時Shopifyエンジニアリング責任者のFarhan Thawarはこう計算した。同年Q3に購入者の71%がスマートフォンから注文を完了し、ブラックフライデーからサイバーマンデーまでの期間も売上の69%がモバイル経由だった。モバイルは補完チャネルではなく主戦場だ。さらにAndroidは悪名高く扱いづらい——端末の断片化、低スペック機のパフォーマンス、端末固有のOSバージョンの長期残存など、専用チームを抱えても時間を投入した分だけ成果が出るとは限らない。
RNが提示した誘惑は具体的だった。Shop Appを移行した後、iOSとAndroid間でコードの95%を共有できた。95%は、2プラットフォームで重複作業が半分になることを意味する。Web開発者でもモバイル開発に着手できる。
Clubhouseはその逆の教訓だ。iOS先行公開から14か月経ってようやくAndroidテスト版を出したが、世界展開は16か月後となり、成長の窓をそのまま他社に明け渡した。Shopifyはこの轍を踏みたくなかった。
2025年1月、Shopifyエンジニアリングブログは《Five years of React Native at Shopify》で5年を総括し、多くの場面で良好に稼働していると述べたうえで、共有インフラへの継続投資を約束した。1年も経たず、風向きは変わった。先述の12週間が、この方針転換を裏付けている。
12週間という数字は直感に反する。ネイティブ開発は従来、年単位が当たり前だった。Notionはネイティブ路線で7年取り組んでなお完了していない。同じShop AppをShopifyがRNで書き換えたときは複数四半期を要したのに、ネイティブへ戻すほうが速い。
前提が変わった。AIコーディングエージェント(コードの自動生成・修正・テストを実行するAIアシスタント)が、両OSでの並列開発を遅らせていた翻訳、テスト、コードレビューといった作業を引き受けた。2つの独立したコードベースを維持するコストが急落し、クロスプラットフォームUIの抽象化は資産から完全な負債へと変わった。
この影響はShopify一社にとどまらない。両OS並列のコスト計算が書き換わった瞬間、クロスプラットフォームフレームワークに賭けてきたすべてのチームが再計算を迫られる。抽象化税(汎用化のために支払う追加の複雑さと性能ロス)を払い続けるのか、それともネイティブ2チームに分割しAIに任せるのか。