2026年8月、米国防総省が300万人の職員にChatGPTとGrokを提供開始——ただし、条件は「言うことを聞くこと」だ。GenAI.milポータルに導入された2つの商用モデルは、データを外部に出さない専用線で使われる。一方、安全ガードレールを主張したAnthropicは「サプライチェーンリスク」のラベルを貼られて排除された。軍用AIの参入障壁は技術力ではなく、契約条件だった。
1年前はモデル1つだけ、今や半数以上の職員をカバー
2026年8月31日、国防総省がChatGPTとGrokを導入した。GenAI.milという軍用ポータルだ。300万人が使えるコンプライアンス経路が開通した。
GenAI.milは昨年始まった。当時はGoogleのGemini(Googleの大規模言語モデル。チャット、文章作成、コード生成などに対応)だけだった。1年後、主力モデルが2つ増えた。OpenAIのChatGPT MilとxAIのGrok for Governmentだ。後者はSpaceXのStarshield AI衛星ネットワーク経由で配信される。
国防総省の狙いは職員に最先端モデル(業界では、能力が最も高く、急速に進化を続けている大規模モデルの一群を「フロンティアモデル」と呼ぶ)を使わせることだ。ただしデータを消費者向け経路に流さない。公式軍用版なら、データ収集を免除できる。消費者向け製品では避けられないものだ。
利用者は170万人。国防総省職員300万人の過半数だ。この数字でGenAI.milは世界有数の大規模モデル導入事例になった。
ポータルにAnthropicのClaudeはない。今回の発表で最も目立つ欠落だ。
なぜAnthropicだけが外れた?
国防総省は2つの消費者向け大規模モデルに異なる役割を振り分けた。ChatGPT は文書作成に、Grok は最前線へ。
ChatGPT Mil は OpenAI 自身の OpenAI for Government プロジェクトから提供され、機能は消費者版とほぼ同じ。チャット、ファイル処理、Project ワークスペース、そしてカスタムGPT(用途に応じてカスタマイズできる対話ボット。専用ナレッジベースやワークフローを組み込める)。国防総省が与えた役割は明確で、文書中心の事務作業だ。行政管理、物流、計画立案、政策草案など、すべて非機密の通常業務であり、追加機能は今後順次搭載する。
Grok は別の道を行く。Starshield AI は SpaceX が Starlink を基盤に構築した軍用衛星ネットワークで、Grok for Government はその配下にある。
国防総省プレスリリースは端的にこう記す。「将兵に即時の生産性向上、知識の継続性強化、より安全で効率的なコラボレーションをもたらす」。用途も具体的に挙げている。調達担当者の市場調査から後勤担当者のサプライチェーン管理まで、幅広く対応する。
どちらも「軍用版」と名乗るが、性格は分かれる。ChatGPT はホワイトカラー業務を担い、Grok は作戦・情報・サプライチェーンの文脈へ投入した。Anthropic がセーフガード論争で排除された後、国防総省は利用可能な計算資源をできるかぎり広く展開する意向だ。文書系と作戦系、それぞれのフローを最も動きの速い2社に託した形だ。
分業のロジック、モデルの改造内容、類似施策の国内展開。以下、項目ごとに掘り下げる。