入社から2週間、あるネットハンドルネーム「voxium」のエンジニアが大企業の内部で目にした光景——仕様書、コード、テスト、PRD(製品要求文書)、チケットのすべてがClaude Codeによって生成され、L1からL7までの全エンジニアが毎日12〜13時間、ただEnterキーを押し続けることだけが仕事になっていた。Simon Willisonのブログに収録されたこの吐槽(ぼやき)は、「AIはコードをより速く書く」という神話の最も刺さる一面を照らし出した。書く人間もいなくなり、読む人間もいなくなった。

レストランの厨房を想像してみてほしい。料理人は野菜を洗わず、切りもしなければ、火加減も見ずに、レンジで温めただけの料理パックを皿に盛って客に渡すだけ。客が皿をどんどん積み上げていくので、厨房は猛烈に効率良く回っているように見える。しかし、どの料理パックが期限切れか、どの料理を止めるべきかを誰も知らない。一つのレストランなら皿を積み上げ続けて1週間は持っても、食中毒の一撃には耐えられない。コードを書く会社もまったく同じシナリオだ。皿(commit、チケット、PRD)を積む速度が速いことは、料理が本当に出来上がっていることを意味しない。類比話はここまでにして、実際不同的是——レストランで食中毒が起きれば数日内に症状が出るが、レビューされなかったコードに埋め込まれた地雷は、本番事故やコンプライアンス監査、セキュリティ侵害が爆発して初めて炸裂する。その時になって修正するコストは、当初「節約した」時間の10倍以上になるのが普通だ。
事件

入社2週間、彼が目にしたのは「エンターキー人形」だった

ある大企業では、すべてのドキュメント、すべてのコード、すべてのテストがClaude Codeによって書かれていた。誰も読まないし、読む時間もない。

2026年9月20日、Simon Willisonのブログに一本の引用文が掲載された。voxiumを名乗る人物は、ある大企業に半月前に入社し、次のような光景を目にしたと語る。仕様書、コード、テスト、PRD、チケット、チケットの解決策、レポート——彼が列挙したリストは、ソフトウェア開発フロー上のほぼすべてのドキュメント成果物を網羅している。「そのすべてがClaude Codeによって書かれている」と。

チーム内では誰もこの状態を好んでいない。voxiumによれば、グループのメンバーは「全員が可能な限り多くのアウトプットを出すよう求められている」といい、上司から繰り返された言葉はこうだ——「コードのpushがもはやボトルネックではないのに、なぜ我々はまだ遅いのか?」PRD(プロダクト要求ドキュメント。開発者向けに機能を説明する仕様書)チケット(エンジニアに割り振られる具体的なタスク項目)

12〜13時間
エンジニアが毎日エンターキーを押し続ける勤務時間
出典:Simon Willisonのブログ
L1〜L7
ジュニアから最上位レベルまでの全エンジニアをカバー
出典:Simon Willisonのブログ
2週間
voxiumが入社後に問題に気づいたまでの期間
出典:Simon Willisonのブログ

仕事内容はたった一言に圧縮された。「Claudeと話せ」。voxiumの同僚たちは毎日12〜13時間働き、やっていることはエンターキーを押すだけ。コード、製品ドキュメント、チケットの返信、チケットの処理報告——すべてがAIから吐き出され、リポジトリ、ドキュメントシステム、チケットシステムに積み上げられていく。処理待ちの速度は、誰かが読み終えられる速度を圧倒的に超えていた。

これはClaude Codeが支えるパイプラインだ。Anthropicのこのターミナル型プログラミングツールは、バグ修正、テスト、数日にわたるマイグレーション作業に対応し、macOS、Linux、Windows上で動作し、IDE、Slack、GitHubとも連携できる——手を出すのはコードを書くことだけではない。voxiumの説明を見る限り、彼が勤める企業はこのパイプラインをソフトウェア開発の全工程に接続していた。

しかし問題はまさにここにある。すべての工程がAIに接管されたあと、ボトルネックは「書く」から「読む」と「レビュー」に移った。レビュー(他人が提出したコードの正否や品質を一行ずつ確認する作業) に対し、voxiumのチームには明らかにこれらのアウトプットを消化する新しいフローが構築されていない。voxiumが耳にした「なぜ我々はまだ遅いのか」——この問いが答えのないまま全員の頭上にぶら下がっている。

奇妙なことに、L1からL7まで、新卒エンジニアからシニア技術責任者まで、「literally everyone(文字通り全員)」が同じ作業をしている。例外は誰もいない。この状態が何ヶ月持つかも誰も知らない。

なぜ深刻か

最も価値ある工程が、平らに潰された

コード量は増えているが、コードを読む人間が消えた。省かれたのはタイピング時間ではなく、レビューと読解と理解だ。

まず問うべきは、これだ。これらのコードを、誰が読んだのか?

voxium(中国のテック企業で、この半月にわたるAIコーディング運用を内部で振り返った当事者)のチームが出した答えは、明確に「誰も何も読まない」だった。仕様書、コード、テスト、PRD(プロダクト要求ドキュメント)、チケット、終了報告——この一連のチェーンがClaude Codeのアウトプットで占められ、生産速度だけが唯一の評価指標になった。経営層が繰り返し伝えていた判断は「コードを書くことはボトルネックではない」。この発言そのものは間違っていないが、誤って「コードを読むことも省略できる」と解釈された。

最も直感に反するのは、AIが強くなったということではなく、従来のソフトウェア工学で最も価値があった工程が文字通り平らに潰されたことだ。レビュー、読書、理解。自分がレビューを通して承認したコードを読まなければ、バグは消えない。最終的に本番環境が「読んでくれる」まで潜伏するだけだ——ただし、この判断が成り立つには前提がある。チームに強制力のあるレビューフローがセーフティネットとして存在すること。セーフティネットがあるチームは時間を節約でき、セーフティネットがないチームは「知情権(知る権利)」を節約したことになる。

voxiumが懸念しているのは、この先だ。誰にも読まれなかったコードが初めてトラブルを起こしたとき、なぜ動くのか、何を動かしているのかを説明できるエンジニアは一人もいないのではないか。高生産性は「AIにもっとコードを吐かせる」ことと再定義され、「保守可能なシステムを書く」ことではなくなった。